巻頭言

“安全保障”は大事だけれど、なんだかとっつきにくい。このように思う人は多いかもしれません。中国や朝鮮半島や中東などの複雑な国際問題のあれこれが出てくるだけでなく、抑止だとか、集団的自衛権とか、集団安全保障などという難しそうな言葉が出てくる。武器の名前も技術の種類もよくわからない。THAADだとかF-35Aだとか、何かの略語のようだが、一体何を指しているのか。
このように思われる方々のために、安全保障、さらには平和や軍事の問題に関して、なんとか基礎的で便利な用語集ができないかと思って作ったのが、このサイトです。何か知らない用語が出てくるたびに気軽に検索していただきたいと思います。また、ランダムに、いろいろな用語の解説を読んでいただきたいと思います。そのたびに、メディアで取り上げられる安全保障問題がわかりやすくなっていくと思います。
もちろん安全保障の議論というと、立場の違いによって延々と面倒な論争が続いているのではないかと思う人もあるかもしれません。たしかに、平和や軍事に関しては、さまざまな見解があります。ただ、第二次世界大戦後の日本では、安全保障というと、ややもすると抽象的な主義主張や法律論ばかりが前面に出すぎてきたという傾向があります。憲法第九条を守るのか、守らないのか。改正するのか改正しないのか。などという議論です。もちろんこのような議論は大事ですが、このような議論だけをしていれば、安全保障に関して理解が深まるというわけではありません。
実際には、さまざまな具体的な問題に即して、具体的な事実を理解し、そのうえで安全保障を確保し、平和を守るにはどうしたらよいかを考えていかなければなりません。政府の政策を判断したり、マスコミで行われる議論を理解したり、自分の意見を形成するために、地に足のついた基礎的な知識が必要です。国民の多くが安全保障に関する具体的な基礎知識を常識として持つ。そうなってこそ、主義主張に基づく議論も建設的になるし、人々の安全保障もよりよく確保され平和が維持されると思います。そのような基礎知識を得ていただくために、私たちはこのサイトを作りました。

田中明彦(政策研究大学院大学 学長)