文民統制(シビリアン・コントロール)の原則

民主主義国家においては、政治が軍事に優越する文民統制は絶対的な原則となっている。これは、政治指導者による最終的な政策決定に如何なる状況であっても軍隊の指揮官は絶対的に服従するということである。サミュエル・ハンチントンは文民統制の概念を、「文民である政治指導者の政策に軍事専門性のある軍事組織を適切に従わせることであり、この場合の文民は国民による選挙によって選ばれた政治指導者であり、最高指揮官(commander in chief)としての責任を負う」と定義している。軍隊の指揮官は、政策決定の過程においては政治指導者に対して軍事的な助言を行う義務があるが、一旦、政策決定が為された後は、徹底的に政策決定に従い軍事的な手段のみを提供する。この政策決定の過程において、政治指導者と軍隊の指揮官との間では対立と協調が生じる。軍隊の指揮官が軍事的選択肢を報告し、政治指導者が軍事政策を決定して政治目的を達成するまでの一連のプロセスと結果が政軍関係の中核となる。文民統制の原則が最も機能している状況は、理論的には100%間違った政治指導者の政策決定に軍隊を徹底的に服従させ、政治目的が達成できない意味のない作戦を軍隊が黙々と行うことである。一般的に、軍隊の指揮官は政治指導者の政策決定が受け入れ難いときには自ら職を辞す。政策決定に対する軍隊の指揮官の徹底的な服従は、民主主義国家の国防組織の在り方についての軍隊の指揮官の深い見識と強い使命感に基づいて自発的に行われるものでなければならない。ハンチントンは、プロシア以前の政治と軍隊の関係のように政策決定への服従を強制的に強いることは、軍隊の指揮官の誇りを著しく傷つけ、その使命感の維持を困難にすると指摘している。

「安全保障用語」編集部